2011年01月19日

第11話 シャヒットの本性…・・・高尾淳のパキスタン紀行

今週の週プロはIGF2・5福岡大会の藤波辰爾vsマスカラス夢対決が実現で大反響!宮戸現場部長がメジャー団体に参戦を呼びかける

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第11話 シャヒットの本性…

  数日後。シャヒットは仕事だと言っていた。いったい何の仕事をしているのだろうか?まあ、そんなに興味もないし、彼も話そうとはしなかった。

  今日は金曜日。パキスタンでは休日。練習も休みですることもない。テレビをつけると、ずっと踊り続けている男女のミュージカルのような映画。確か、インドの映画だったと記憶をしている。

  チャンネルを回すと、明らかに間違ったカンフー映画がやっていた。何が間違いか?全て間違い!ジャッキーチェンの、スローモーションのような特撮。おまけに、西洋人。言葉もわからなければ、想像も出来ない。そんな、テレビをあきらめ、勇気を出して一人で外出をしてみた。

  それにしても、暑い。毎度の事ながら、熱気が皮膚を襲う。目的のないままに、ホテルの前にある公園に行こうとすると
――この、「目的のないままに」という行動がまずかった。おまけに、一人で行動することが。
  普段であれば、迎えに来た柔道関係者。そして、最近知り合ったシャヒットがいるために、私の周囲に人が寄りつこうものなら、

 「なに見てんだこのやろう! 見せもんじゃねえんだよ!」

   というような感じで、近寄る人々を追い払ってくれるのだが、今日は無防備な一人。数十人の老婆と子供が押し寄せると……

 「マネー!マネー!マネー!」

   と、ものすごい勢いで迫ってきた。いくら強がっても、見知らぬ国で、大勢の人に囲まれると、日本では味わったことのない恐怖を感じることとなった。
   私は急いで、ポケットからお金を取り出すが、そこにあったのは、100ルピー(200円)札ばかりだった。さすがに100ルピーを十数人にやるわけにはいかない。そう思うと、100ルピー札数枚を、ポケットにしまいこんだ。

   しかし、そこからが更なる恐怖の始まりだった。普段、100ルピー札を見たことがないのか?この集団にとってはかなりの高額にあたるのだろう。
   当たり前だ。1ルピー(2円)で一食食べられるのに、100ルピーは百食分。つまり、一ヶ月三食を食べてもおつりが来る。明日をも知れぬ人々には、夢のように写ったのだろうか。先ほどまで丁寧に、同情を買うように「マネー、マネー」と言っていた集団は暴徒と化した。

   だが、暴徒といってもたかが老婆や子供の集団。そんなものにビビル柔道家ではないと思っていたが、必死に私の金を奪おうとする老婆や子供の気力は、日本では経験したことのない恐怖を感じさせるものだった。
   ズボンを引っ張り、Tシャツを引っ張り、あわよくば財布を抜き取ろうとする集団。周囲にいる人たちは、この状況を見ても、誰一人助けに来るものなどいない。ホテルから百メートル。そんな距離が、果てしなく遠く見えてしまう。
   その先の道を横切って、ホテルに駆け込めば……と、思うものの、生きることに必死な集団は、その行動を阻んでいた。

   そんな時、

 「てめえら!ふざけんじゃねえぞ!」

   みたいな、現地の迫力ある言葉で叫んでくる青年が?私の目線は声のするほうに……そこに見えたのは?

 「シャヒット! どうしたんだ?」

 「アナタトイルホウガ・ベストデス」

   つまり、下手に仕事に行くより、私の世話をして200ルピー稼ぐほうが得だと言いたいらしい。

 「とにかく、助けてくれ!」

   シャヒットは、棒切れのようなものを持ち、大声で叫んだ。

 「ガリバリハニダリカリ……」

   意味はわからないが、「こいつに手を出したら、俺が黙っちゃいねえぞ!」とでも言っていたのか。集団は恐れをなし、私は自由の身になった。

  そして、シャヒットは、

 「ダメデス・ヒトリデソトニデテハ。デルトキハ、ワタシヲヨンデクダサイ」

   そんなことを言われても、当時、携帯電話はない。日本にあったとしても、パキスタンにはない。

 「どうやって連絡するの?」

 「ダイジョウブ。フロントニ、シャヒットトイエバ、ツナガリマス」

  恐るべきシャヒット。彼は、私を生活の糧とすべく、ホテルのフロントにまで手を回していた。

  物乞いの集団から逃れても、ハイエナのようなシャヒットが待ち構えている。だが、そのときの私は、シャヒットを絶大に信頼していた。どんな困難が待ち構えていても、こいつに頼めばダイジョウブだと。

  しかし、ハイエナは、徐々に私のふところを犯し始めた。彼の優しさは、私の財布の中身を望む行動に過ぎなかった!

※次回1月26日(水)更新予定となります。→最新情報プロレスランキング

【高尾淳(たかおあつし)プロフィール】
1960年代後半生まれ。証券会社勤務を経て、現在は、関東地方の私立高校教師にして生徒指導部長。つくばユナイテッド柔道のコーチも務める。1994年に故ジャンボ鶴田、2010年には小川直也の家庭教師を務め、筑波大大学院へと導く。同級の小川直也とは公私ともに交流を持つ間柄。著書に「パニックマン〜ある体育教師のパニック障害克服記」(新潮社)、「ジャンボ鶴田☆三度目の夢」(ミルホンネット)等がある。

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ある体育教師のパニック障害克服記

飛行機や新幹線に乗ると襲ってくる「空間に押し潰される!」という恐怖。深刻でありながらもどこか少しユーモラス。「パニック発作」との6年に渡る攻防を、あえて軽妙に描いたエンタメ・ノンフィクション!

強面の生徒指導部長にして豪腕の柔道家。ストレスを溜め込む性格だという自覚は皆無。そんな体育教師が、突然、意外にもパニック障害になってしまった!?男は立場やプライドのために自分が不安と恐怖で飛行機や新幹線等に乗れなくなったことを隠し続けるが、あるとき、一種の責任感からパニック障害と向き合い、この疾患を克服しようと決意する―。その過程を軽妙に描いた体験録。

三度目の夢ジャンボ鶴田☆三度目の夢 高尾淳著
【ジャンボ鶴田から大学院生、鶴田友美への転身時に一番側にいた人物、高尾淳さんの書き下ろしノンフィクション。リング上からは想像もできない普通の大学院生のジャンボが見られます! 読むにつれ、当時のジャンボの様子が走馬灯のように思い出されました。 鶴田保子】

◆ジャンボの後は任せておけ!
高尾は俺に、「ジャンボ鶴田の再来」というが、俺は俺だから、ジャンボ鶴田を意識することはない。だが、「三度目の夢」を読んで思ったよ。四十三歳は、人生の下り坂ではないと。 偶然、ジャンボ鶴田と同じ道を歩むことになったが、俺はジャンボ鶴田を超える気でいる。絶対に負けるつもりはない。 だが、同じ大学院の先輩に対して、敬意をはらって言いたい。「鶴田先輩に開いていただいた道を、大事に歩みたいと思います」と。 推薦文・小川直也

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